テレビや雑誌で“歯周病”というフレーズを見たり、聞いたりすることが多い昨今ですが、意外にも、歯周病について本当のことを知っておられる方は少ないのが現実です。
その責任の一端は、真実を伝えない歯磨剤メーカーのCMや歯科医師にあります。
右の図をご覧ください。
歯と歯肉(歯ぐき)の間に歯周溝と呼ばれる隙間があります。
この隙間の歯垢(プラーク)は、歯ブラシ清掃による除去が比較的難しく、多くの人々がこの部分のプラークをうまく除去できていません。
この部分にプラークが付着したまま長い時間が経過することにより、そのプラーク中の菌を死滅させようと免疫細胞が血液によって運ばれてきます。
この免疫細胞を運ぶ血液が増加することで、この部分の血流が多くなることにより、歯肉が赤く腫れたり、出血しやすくなります。
この状態を歯肉炎といいます。
さらに免疫細胞がプラーク中の細菌を殺すことにより菌体が破壊され、その体内にあった毒素が放出されます。
その毒素によって歯周組織(歯を支える骨など)の破壊が生じると、歯肉溝は深くなって、歯周ポケットを形成します。
歯周ポケットが深くなるということは、歯周組織の破壊も進行しているということで、このような状態を歯周炎といい、先ほどの歯肉炎と合わせて歯周病といいます。
したがって、本当に歯にダメージを与えるのは、歯肉炎ではなく歯周炎であることがご理解いただけると思います。
ところが、テレビのCMの中に“歯肉が悪いことが歯をダメにする”と誤解させるようなものがあり、歯肉が健康であれば、歯は大丈夫と思っておられる方も多くいらっしゃいます。歯周病になっているかどうかは、検査をすれば簡単にわかります。
歯周ポケット内にプローブと呼ばれる細い診査器具をそっと挿入し、その深さを測定します(1本の歯について6ヶ所測定することが望ましい)。
また、歯周ポケットの深さを測定した後、歯周ポケット内からの出血の有無・出血量を診査します。
これらをすることで、歯周ポケット内の炎症の有無や強さ、さらに、歯周組織の破壊の程度をある程度把握することができます。
検査にかかる時間は、10〜15分程度です。
理想的には、歯周病治療を受けることが望ましいのですが、現実的には治療の本当に必要な方と、経過観察で良い方がいらっしゃると思います。
では、どのようにしてそれらの人を治療と経過観察にわけるのでしょうか?
歯周病がどのようにして発症していくのかは先ほど「Ⅱ.どうして歯周病になるのでしょう 」で述べましたように、歯周ポケット内に存在するプラーク中の細菌(その中に歯周病の原因菌が存在します)が原因ですので、この菌を除去する必要があります。
その方法は2つあり、1つ目は従来の機械的除去、2つ目は抗菌剤による方法です。
現在の歯周病治療の考え方において、主たる除菌方法は機械的なものです。
歯肉より上に付着しているプラークや歯石、さらに歯周ポケット内に付着したプラークや歯石の除去を機械的に行うことを歯周基本治療といい、これによって歯周ポケット内の細菌を減少させます。
しかしながら、このような処置で一度減少した菌も、時間とともに再び増殖してきます。
そして、元の状態に戻ってしまうのです。
そうならないようにするには、定期的に歯周ポケット内や歯に付着しているプラークや歯石を除去する必要が生じてきます。
それでは定期的というのは、どのくらいの期間をさすのでしょうか?
実は、この期間が人によって、また同じ人でも、その年齢等によって異なるのです。
その違いは、何に由来するのかははっきりとはわかっていませんが、その1つは、個人の持つ免疫的な要素を含む体質的なもの、さらにはその時の体調、もう1つは、口腔内清掃をどれくらいうまくできるか、が関与していると考えられます。
したがって、歯周病治療においては、歯科医院における歯周初期治療を含む、プラークや歯石の除去による除菌と、患者さんご自身によるしっかりとした口腔の清掃の両方が必要不可欠となります。
ここで、当医院における歯周病治療の流れを具体的にお話ししましょう。
となりますが、上記の2・3・4を定期的(2ヶ月〜6ヶ月ごとに)に行い6ヶ月〜1年間くらい経過を診た上で、充分な効果が得られているかどうかを判定します。
そこで、もし不充分な効果しか得られていない部位が残っていたら、その部分に対しては、他の治療方法を考えることになります。
他の治療方法には、
定期的に歯科医院へ通う必要があり、また、ご自身でも口腔内をしっかり清掃し続けなければならないということから見れば、患者さんにかかる負担は大きいといえるでしょう。
このことが歯周病によって歯を失う人が数多く存在する大きな原因の一つといえると思います。